まさよしのブログ

日記・読書・スキー等いろんなことについて書いています

高熱隧道 吉村昭 を読んで

内容は、黒部第三発電所建設の為トンネルを貫通する話。

時代は昭和11年8月着工、昭和15年11月完工。

登場人物はフィクションらしい。

発電所建設の為、トンネルを貫通させるのだが、ここは温泉湧出地帯であり、岩盤温度が最高165度に達する極めて環境の悪い作業場である。

因みに発破用ダイナマイトの使用については、火薬類取締法で40度が限界と定められているが、その温度をはるかに超えているので当然、自然発火事故も発生する。

この発破作業で犠牲になる人は何人もいた。

また、爆発事故だけでなく、坑内は、高温の為、とてもまともに作業できる環境ではなくそれにより亡くなる人もいた。

坑内では作業者に直接水を噴霧し、岩盤にもダイナマイトが自然発火しないよう、水をかけて冷却し、坑内の高温空気を冷却ファンで外で放出するなど、いろいろ対策はするのが、高温の水を坑外へ排出するポンプが間に合わず、高温水が腰までつかり地獄のような作業環境であったことなどが描かれている。

だいたい20分交代で作業に当たっていたらしい。

ただ、かなりの手当が支給(通常の4倍ぐらいだったらしい)されていたので、作業員たちは身の危険と引き換えにして働いていたようだ。

坑内作業だけでなく坑外の宿舎でも泡雪崩により吹き飛ばされて、かなりの人が亡くなっている。

自然の驚異がすごく伝わる作品。

作中にも、自然には何万年、何億年の歳月の間に形作られた秩序がある。さまざまに作用する力が互いに引き合い押し合いして生まれた均衡が、自然の姿を平静なものにみせているのである。土木工事は、どのような形であろうともその均衡を乱すことに変わりない。火薬で隧道を掘り進むことは、長い歳月たもたれてきた自然の秩序に人間が強引に挑むことを意味するとある。

なぜ、これほど、悪環境にも関わらす、工事が継続されたのか。

それは、黒部第三発電所の完工が阪神地方の戦時下の工業力に大きな意義をもつものだということから軍の要請が強く働いている。

比較的安全な立場にある技術者と、危険な作業に従事している人夫との微妙な関係性、自然の驚異、軍の思惑など、が描かれており、いろいろと読み応えのある作品でした。

 

高熱隧道 (新潮文庫 よー5-3 新潮文庫) [ 吉村 昭 ]

価格:605円
(2022/4/17 13:24時点)
感想(40件)