空白の戦記の中の一篇。
戦艦武蔵の設計図紛失事件の話。
犯人は、図工の少年。
大和や武蔵等は、その巨大な戦艦の建造をアメリカ海軍にさとられては困る。
最高の気密度をもつ「軍機」扱いとして厳重な秘匿策がとられていた。
技師や図工らは、重要機密図書をあつかう関係でその身許調査は厳重をきわめ、さらにその日常生活も監視された。
少年は武蔵の図面の一部をボイラー室で紙屑とともに燃やしてしまう。
動機は、牢獄のような閉ざされた密室に毎日勤務することに堪えられなかったからだった。
仕事の内容としても茶を運んだり掃除をしたり紙屑の整理をしたりする雑役のような仕事ばかりで、かれは、図工として技術習得中の友人たちがいる他の職場へ移りたい欲望をおさえきれなかったそうだ。
なにか過失を犯しさえすれば他の職場へ移されるだろうと単純に考えた。
犯人が少年であることがばれて、少年は獄につながれ、その後満洲へ送られた。
作者は、テレビのディレクターと共に、その少年を探すことになった。
捜索した結果、もうすでにその少年は亡くなっていた。
少年のその後の人生は、憶測でしかないが、あまり幸せではなかったようだ。
作者もわざわざ昔の嫌な話をさせるために当時の少年を探すのはどうなのかと躊躇し葛藤していたようだ。
もちろん、当時の真相というか話を聞きたいという部分もあったので、そのような葛藤がありながら、亡くなっていたことまで突き止めたのだが。
仮に生きていて、話を聞けたとしても、ただ、職場を移されたかっただけの理由だけだろうし大した内容は得られなかったのでは?と個人的には思った。
でも、探して話を聞きたい作者の気持ちもわかる。
おわり
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